統計という包丁の物語|データを“料理”として扱うということ

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統計という包丁の物語|データを“料理”として扱うということ

僕は、しばらく料理の世界に携わっていました。
包丁には、実に多くの種類があります。

薄刃、柳刃、出刃、ペティ、そしてタコ引き――。
素材や場面に合わせて、包丁を使い分ける。
それが料理人の基本であり、美しさでもあります。


包丁の世界にある「適材適所」

薄刃は、かつらむきや野菜を繊細に切るときに。
柳刃は、刺身の切り口を滑らかに仕上げるときに。
出刃は、魚を下ろしたり、骨を断ち切るときに。
ペティナイフは、細やかな飾り切りや果物の皮むきに。
タコ引きは、刺身に特化した長くしなやかな刃を持ちます。

どの包丁も、使いどころを誤れば、料理を台無しにします。
出刃で刺身を切れば、身はぐちゃぐちゃになり、
薄刃で魚を下ろせば、刃こぼれしてしまう。

調味料を入れるタイミング、隠し味、火加減――。
それらの要素が重なり合って、料理は「味」になります。
つまり、道具そのものよりも、どう使うかが「腕の見せどころ」なのです。


家庭料理とプロの違い

家庭では、文化包丁一本で十分。
調味料をまとめて「ドバーッ!」と入れても、ちゃんとおいしい。
隠し味がなくても問題はありません。

包丁一本、素材と調味料さえあれば、たいていの料理はこなせる。
これは、決して家庭料理を卑下しているわけではありません。

ただ、**“お金をいただく料理”**には、精度と再現性が求められる。
それが、家庭とプロの大きな違いなのです。

僕も自宅では、包丁を使わずキッチンバサミで済ませることがあります。
目的が違えば、道具の選び方も変わる――。
料理の世界は、常に「目的」と「手段」の関係で成り立っています。


統計も同じ構造を持っている

統計の世界も、実はこれと同じ構造を持っています。

データの特徴や、出来上がりの目的によって、
使う“道具”や“技術”が変わる。

売上平均、月次売上、来客平均――。
それらの数字は確かに有用です。
けれど経営という視点で見れば、
それはまるで料理人が「文化包丁」だけで全ての料理を作ろうとするようなものです。

経営の現場では、素材が複雑で、仕込みも多い。
一つの包丁、一つの技術だけでは、
繊細な味も、素材の真価も引き出せません。


統計家は“料理人”である

経営者は、素材である「データ」を提供する人。
そして私は、そのデータを預かり、
統計という多彩な包丁と技術を使って“調理”する料理人です。

データという素材を切り分け、火を通し、味を整える。
そうして出来上がった一皿――それが、統計結果という料理です。